2012.10.

Venice, Oct. 2012, for the Symposium organized by the University of Tsukuba

 

新しい地球倫理を問う


地球システム・倫理学会会長 服部英二 

 (前略)地球システムを救うには、今こそ新しい倫理が問われなくてはならない。すなわちパラダイムの転換が必須であるとわれわれは信じる。その新しい地球倫理の確立のためには、近代の所有の文化を生み出した理性至上主義すなわち「父性原理」の徹底的な批判、すべての文明の深奥に通底する「母性原理」の見直しが行われなければならない、とわれわれは信じる。「力の文明」から「生命の文明」への転換である。「戦争の文化」から「平和の文化」への移行である。 しかし、その際もっとも注意すべきはバランスである。それは単なる理性の否定であってはならない。人類には父母の双方が必要なのである。われわれの追求する「通底の価値」すなわちすべての民族が分かち合える未来的倫理とは、感性のみによるものではなく、あくまでも互敬の立場に立ち、感性・霊性と響きあう理性によってのみ到達可能なものと知るべきであろう。それを新しい理性主義と呼んでもよい。 世界の現状は、カントやユーゴーの夢見た「世界連邦」の成立には程遠い。しかし「地球市民」の意識の涵養は可能である。何故ならば、ミシェル・セールが奇しくも見てとったように、人間に切り裂かれた自然が、無言のうちに、人間に向かって再結集し始めているとすれば、この状況こそが全人類への「挑戦」challengeにほかならず、それへの「応答」responseが地上の全民族の連帯に求められているからである。  私は筑波大学の先導する日欧学術協働シンポジウムが、人文科学の領域で「対話」の真の意味を明らかにしてくれることを期待している。対話は自らの変化を包含するもので、「越えていく」こと、他者の尊重による互恵に向かうものである。一つの重要なアプローチは、今まで科学主義の陰に置かれ無視されてきた文化的なもろもろの価値を再発見することであろう。 地上のあらゆる場所で、時の帳に隠れつつ育まれてきた母性原理は、再認識されるべきもの一つであろう。 我々の追求すべきは「深みにおける出会い」である。人類のすべてがおのおのの文化的アイデンティティーを生きながら、その魂の奥底で出会うことである。そこにこそ異なった文明を超えた通底の価値、すなわち新しい地球倫理の基礎、が見出されるであろう。

2011.04.11

地球システム・倫理学会緊急アピール

国連倫理サミットの開催と

地球システム・倫理学会 会長 服部英二

  世界が直面する危機は経済危機でも金融危機でもなく文明の危機であり、その解決には人類の叡智の地球規模の動員が必要とされます。  このたび日本を見舞った未曾有の大震災と津波による数十万人の生命線の破壊、更にそれが惹起した福島原発事故は、日本のみならず世界に人間の生き方の変革を迫る「母なる大地」の警告にほかなりません。  「自然を統御し支配する」という17世紀以来の科学文明は、破局に人類を向かわせる「力の文明」であり、理性至上主義の父性原理に基づくものでありました。今やこれを、命の継承を至上の価値とする母性原理に基づく「いのちの文明」へ転換すべき時です。このパラダイム転換こそが、すべての民族が、そして人間と地球が共生する「和の文明」を築く基盤であります。諸文明に通底する倫理とそれに基づく人の絆を築き、未来世代が美しい地球を享受する権利を尊重する新しい文明の創設が待たれます。  日本はついに軍事・民事の双方で原子力の犠牲国となりました。日本は国際社会に核廃絶を訴え続けてきました。当学会としては、日本は今や自国のみならず世界が、エネルギー問題においても、脱原発に舵を切ることを訴えて行く責務を負うに至ったと確信します。この責務を果すことこそ今回の不幸を無駄にしない唯一の世界への貢献であると信じます。  人類が直面する危機の根深い原因は世界的に蔓延した倫理の欠如であります。未来世代に属すべき資源を濫用枯渇させるばかりか、永久に有毒な廃棄物及び膨大な債務を後世に残すことは倫理の根本に反します。市場原理主義による簒奪文明からの脱却が急務であります。  このような状況を前にして、本学会としては、一日も早く国連倫理サミットを開催し、「地球倫理国際日」を創設することにより、毎年倫理の重要性に思いを馳せる機会とすることを国際社会に提唱するものであります。


2013.07.30

「巨大コンクリート防潮堤建設の
 2013年7月30日
 
地球システム・倫理学会

2011年3月11日に発生した東日本大震災の後、その復旧・復興過程で、被災地海岸線に最大十六メートルの高さ(最大底辺八〇メートル)の防潮堤を造ることが計画され、すでに一部着工されています。 

この計画と実施が、地元住民の考えや生活形態、地域のあり方、将来構想などを充分に組み込み検討することなく進められていることに多くの関係者が疑問を抱いています。 

とりわけ、一律にコンクリートで防潮堤を築くことは、海と共に暮らしてきた沿岸部地域住民の親水・親海感を分断し、森・里・海のいのちの循環を断ち切るものではないかという強い懸念が寄せられています。 

地球システム・倫理学会では、このような、一律コンクリートによる防潮堤の築造に対して反対の意を表するとともに、これまでの親水・親海的な暮らしと民俗の知恵の再検証に基づく地域住民主体の防潮・防災構想の再構築を国・県およびすべての関係者に求めます。

2012.03.11

2012年 地球システム・倫理学会緊急アピール 

平成24311

 

.11を「地球倫理の日」にしよう


地球システム・倫理学会 会長 服部英二

 フクシマは、原発事故が人類と地球に許容できない惨禍をもたらすものであることを全世界に思い知らせました。しかし、文明の破局の第一歩となる可能性を秘めたこの事故を教訓として新しい未来を開こうとしていない世界の現状を、われわれは深く憂慮します。 その第一の教訓は、もはや何人も責任を取れないほどの巨大な被害をもたらしうる科学技術は、事故の確率的数値がどうであれ、そのリスクが完全に0でなければ決して使用することが許されるべきではない、ということです。第二の教訓は、未だ最終的処理方法が発見されていない核廃棄物に象徴される現存世代の倫理の欠如こそが、人類の認識すべき緊急の課題であることです。 放射能汚染を許すあらゆる行為は、計り知れない害悪を半永久的に人類と地球に残すものであり、1997年のユネスコ総会において、現存世代には未来世代が享受すべき美しい地球を残す責任があると、全世界が一致して採択した「未来世代に対する現存世代の責任宣言」に対する背信行為であると知るべきです。 日本はついに民事・軍事の双方で原子力の犠牲国となり、世界的規模の放射能汚染の被害国であると同時に加害国になりました。 日本は永年、国連の場において非人道的な核兵器の廃絶を訴え続け、それは今、欧米を含めた絶対多数の声となりました。しかしこの核兵器の遺児である核燃料による発電は、原子力の平和利用の美名と市場原理主義の掲げる効率の名のもとに、未だ世界に拡散しつつあります。今、日本国民は、自らが体験した悲劇の、他国・他地域での再発を防ぐためにも、民事・軍事を問わない真の核廃絶を世界に訴える歴史的責務を担っていると信じます。 3.11の直後の4月11日、本学会は複数言語による「緊急アピール」を世界に発信し、今起こっていることは文明の危機であること、「力の文明」から「いのちの文明」への転換を図ること、「いのち」の継承を至上の価値とする「母性原理」を再評価することを説き、更にその根底には倫理の問題があると指摘し、世界が脱原発に舵をきることを訴えました。 地球倫理の確立なしに次世代に美しい地球を残す未来の人類文明はあり得ません。幸い、本学会がこの緊急アピールで訴えた「国連倫理サミット」の開催と「地球倫理国際日」の創設に対しては、世界の多数のオピニオン・リーダーより強く支持する旨のメッセージが寄せられています。 われわれは今日、国際社会が3月11日を「地球倫理の日」と定め、世界のすべての人びとが地球と文明の未来を考える反省の日とすることを提唱します。