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世界ユネスコクラブ連盟会議における基調講演(2013年3月)

2013/04/20 4:58 に 地球システム・倫理学会事務局 が投稿   [ 2014/04/27 22:46 に更新しました ]
地球倫理とユネスコ

服部 英二 
日本、地球システム・倫理学会会長 
世界ユネスコクラブ連盟名誉会長 


「人類は母なる大地を殺すのであろうか?もし、仮に母なる大地の子である人類が母を殺すなら、それ以後生き残ることはないであろう」とアーノルド・トインビーは述べています。

 人類生誕以来の600万年の悠揚たる時間から見ると、その2万分の1という瞬間に等しい時間帯に、科学革命が起こり、人と自然が分離されました。およそデカルトによる「人は自然の主であり所有者である」という自然認識こそが、産業革命を惹起したものですが、この時から人びとの関心は急激に「存在」から「所有」に移ったことに注目せねばなりません。以来、地球という水の惑星がはぐくんできた巨大な生命系の中に位置する人類は、他のすべてを支配の対象とし、母なる地球を、そしてその母が生み出した生きとし生けるものを自らの「進歩」という名のもとに簒奪してきたのです。 

 今日、国連機関をはじめとする国際世論喚起の数々の試みにも関わらず、地球環境は破壊され続け、日々100の生物種が地上から姿を消し、近い将来20億の人びとが飲み水にも事欠く事態が予想されます。
しかしながら、明日を思わず、今日の利益を追求し続ける市場原理主義は、未来世代に思いを致すことがありません。限りない欲望の追求が「自由」の旗印のもとに推し進められているのです。それはあくなき所有の拡大であり、人間の内的成長とは無関係なのです。この市場原理主義こそが覇権主義の正体であり、この覇権主義を終焉させることこそが人類の明日の共生を可能にする条件であります。

 われわれが知るべきは、地球の砂漠化は人間の心の砂漠化から招来した、ということです。地球システムを救うには、今こそ新しい倫理が問われなくてはなりません。すなわちパラダイムの転換が必須であるとわれわれは確信します。古いパラダイムである「所有の文化」から新しい「存在の文化」への転換です。その新しい地球倫理の探究のためには、近代の戦争の文化を生み出した理性至上主義すなわち「父性原理」の徹底的な批判、すべての文明の深奥に通底する「母性原理」の見直しが行われなければならないとわれわれは信じるのです。「力の文明」から「生命の文明」への転換であります。「戦争の文化」から「和の文化」への移行であります。

 世界の現状は、カントやユーゴーの夢見た「世界連邦」の成立には程遠いと言わねばなりません。しかし「地球市民」の意識の涵養は可能であります。何故ならば、ミシェル・セールが奇しくも見てとったように、人間に切り裂かれた自然が、無言のうちに、人間に立ち向かって再結集し始めているとすれば、この状況こそが全人類への「挑戦」challengeであり、それへの「応答」responseが地上の全民族に求められているからです。

 ユネスコはロンドンで1945年、「戦争は人の心の中に生まれるものであるから、人の心の中にこそ平和の砦を築かねばならぬ」との深い反省から創設されました。憲章は更に「政府間の政治的・経済的取り決めのみに基づく平和は、世界のあらゆる人民の、一致した、永続する、真摯な支持を確保できる平和ではない。よって平和は、それが失われないためには、人類の知的・精神的連帯の上に築かれなければならない」と明記しています。

 世界ユネスコクラブ連盟は、1981年、この精神を蘇らせるために創設されたのです。今やすべてのユネスコクラブは、人類の維持可能性と生存のために、すべての民族の意識を「地球倫理」へと覚醒する義務を負っています。

 2011年3月11日、私の祖国日本は、震度9の地震とそれに伴う巨大津波による恐るべき災害を経験しました。それはフクシマの原発を破壊し、3万人の人命を奪いました。30万人の人々は未だ故郷に帰れないままです。

 この大災害は重要な真理を明らかにしてくれました。それは人間が自然に対しもっと謙虚であるべきだということ、そして人類が直面する危機は、経済・金融の危機というより、もっと根本的な危機、すなわち文明そのものの危機である、ということです。

 日本の地球システム・倫理学会は、その年の4月11日、「緊急声明」を発表し、人類文明の価値の転換を訴えました。それは父性原理から母性原理への転換、理性による自然の征服――それは人間の抽象化に外なりません――から、ホリスティック(全人的)なアプローチへの転換です。言い換えれば、それは戦争の文化から平和の文化への転換であり、和の文明への転換です。この精神で、われわれは地球倫理のための国際デーの創設を訴えたのです。

 フクシマの悲劇から丁度1年目の3月11日、われわれは第2声明を発し、3・11を地球倫理の日にすることを訴えました。ここにその一節を引用します。
「放射能汚染を許すあらゆる行為は、計り知れない害悪を半永久的に人類と地球に残すものであり、1997年のユネスコ総会において、現存世代には未来世代が享受すべき美しい地球を残す責任があると、全世界が一致して採択した[未来世代に対する現存世代の責任宣言]に対する背信行為であると知るべきです。」

 私の願いは、ヒューマニズムとルネサンスの揺籃の地であるこの歴史的な都市からの私たちのこのアピールが、人類の運命を案ずるすべての民族に届くことです。
国連組織の良心と言われるユネスコは、この重要な任務に対し重要な役目を果たすでありましょう。

 最後に私は、世界連盟会長ジョージ・クリストフィデス氏に敬意を表し、イタリア・ユネスコクラブ連盟とその会長マリアルイザ・ストリンガ女史、そして私がここにいることを可能にしてくれたトスカーナの5つの都市とフィレンツェの商工会議所、またすべての協力者にお礼を申し上げます。私は、皆さんと共に、未来世代のためにこの地球を救い、人類の未来に道を開くべく全力を尽くす責任を痛感しております。
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