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国際的格差にどう対応するか NGOの役割

国際的格差にどう対応するか NGOの役割
後藤敏彦

はじめに

戦争の無い世界のためには富める者と貧しい人々の格差が容認できる範囲内に収まることは必須事項と考えられる。グローバリゼーションの進展の中、豊 かな国と貧しい国々の格差については、1992年のブラジル・リオデジャネイロでの地球サミット(UNCED)で格差是正方針がうたわれたにもかかわらず 益々拡大している。
世界銀行の定義では貧困は1日2ドル以下で生活することをいい、極貧とは1日1ドル以下で生活することをいう。過去20年間に貧困は悪化しており、世界人 口65億のうちおよそ40%(1981年は36%)が貧困状態にあり、8.77億人(1981に比べ3%増加)が極貧状態に置かれている。最悪の失敗例は アフリカで極貧割合が1981年の41.6%から2001年の46.9%に悪化している 。
つまるところ、国連をはじめとして様々な取組がなされているが、アジアを除き目立つ進展どころか事態は悪化の一途をたどっているのである。なお、富める国の中での格差も大きな問題となってきているが、本稿ではいわゆる南北問題に限定して考察することとする。 他方、気候変動については人為起源がほぼ確実 といわれるようになり、人類的課題となってきた。問題は気候変動が途上国に最初に打撃を与えることであり、貧しい国々は益々厳しい状況になることが予測されることである。 こうした状況の中で、解決については政府だけではなく民間セクターに大きな期待が寄せられている。そこでの企業セクターの役割と市民組織の役割について考えてみた。

1. 国連の取組

国連は環境問題に関しては早くも1972年の国連人間環境会議において取り上げ、その結果、国連環境会議(UNEP)を設立し取組を開始しだした。 そのUNEPで日本から賢人会議が提案され、国連の決議を経て1984年から「環境と開発に関する世界委員会」が開始、議長の名前をとってブルントラント 委員会と称された。1987年の報告書、”Our common Future” にてサステナブル・ディベロップメント(「持続可能な開発」、もしくは「持続可能な発展」)という言葉がはじめてではないが使われ、以後の環境問題のキー ワードとなっている。この報告書をうけ1989年の総会でストックホルム会議の20周年を記念してUNCED(国連環境会議)が開かれることになった。そ れがブラジル・リオデジャネイロの「地球サミット」であった。

1) リオ・地球サミット 1992年6月にリオで開催され、その成果として「環境と開発に関するリオ宣言」、21世紀に向けての人類の行動計画「アジェンダ21」が採択され、「森 林原則声明」が発信されたほか、気候変動枠組条約と生物多様性条約に対して日本を含め多くの国が署名した 。ちなみに開催日6月5日は「環境の日」として記念されている。
アジェンダ21では第1章前文に続きセクションⅠ.社会的・経済的側面として第2章から第8章まで費やしている。章題を表1.に示しておく
表1. アジェンダ21 セクションⅠ.  社会的・経済的側面

第2章 開発途上国の持続可能な開発を促進するための
    国際協力と関連国内政策
第3章 貧困の撲滅
第4章 消費形態の変更
第5章 人口動態と持続可能性
第6章 ヒトの健康の保護と促進
第7章 持続可能な人間居住の開発の促進
第8章 意思決定における環境と開発の統合

このアジェンダ21については5年後の1997年に実施状況総括的にレビューと評価をするための国選特別総会が開催され、「アジェンダ21のいっそうの実施のための計画」が採択されている。 リオではもう一つ、リオ宣言第10原則にて、環境問題解決のアプローチとしてパートナーシップを提唱している。 表2. 環境と開発に関するリオ宣言第10原則

環境問題は、それぞれのレベルで、関心の あるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる。国内レベルでは各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している 環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない。各国は、情報を広く行き渡らせることにより、国民の啓発と参加 を促進し、かつ奨励しなくてはならない。以下、省略

パートナシップ社会のイメージを図1.2.であらわしておく。
図1. パートナーシップ社会のイメージ図
(後藤敏彦作成)
表

後述するように日本は市民セクターを育成してこなかった。パートナーシップ社会がなりたつためには市民セク ターの育成は必須事項である。 また、グローバリゼーションが進展すると逆にローカルの活動が勢いを増し協力になっていく。経済学者ジョン・ネスビッツがなずけたグローバル・パラドック スということばがそれをあらわしている 。グローカライゼーションなどとも称されるが、ローカル・レベルのパートナーシップが第一義的に重要で、そこでは解決できないものがナショナルやリージョ ナル・レベルのパートナーシップで解決されるという重層的なパートナーシップが期待されている。
図2. 重層的パートナーシップ社会
(後藤敏彦作成)
表

2) MDGs

国連は、2000年9月にニューヨークで国連ミレニアム・サミットを開催した。参加した147の国家元首を含む189の加盟国は、21世紀の国際社 会の目標として国連ミレニアム宣言を採択した。この国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統 合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標(Millennium Development Goals : MDGs)である 。MDGsの詳細は省くが目標を表3と表4に掲げる。人類的課題ばかりであるが達成は疑問視されている。
日本はこれが採択された2000年には、推進主体のUNDP(国連開発計画)の運営費について世界の中でも最大の15.8%を負担していたが、国内で MDGsを知っている人はどれだけいるのであろうか。筆者の経験では政府関係者以外の一般人では皆無の状況といって過言ではない。

表3. 国連MDGs

1  極度の貧困と飢餓の撲滅
2  普遍的初等教育の達成
3  ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上  4  乳幼児死亡率の削減
5  妊産婦の健康の改善
6  HIV/エイス、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
7  環境の持続可能性の確保
8  開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
出典 (http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/)

表4. 国連MDGs

ターゲット1 2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる。
ターゲット2 2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる。
ターゲット3 2015年までに、全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする。
ターゲット4 初等・中等教育における男女格差の解消を2005年までには達成し、2015年までに全ての教育レベルにおける男女格差を解消する。 ターゲット5 2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少させる。
ターゲット6 2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる。
ターゲット7 マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに阻止し、その後減少させる。
ターゲット8 マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに阻止し、その後発生率を下げる。
ターゲット9 持続可能な開発の原則を各国の政策や戦略に反映させ、環境資源の喪失を阻止し、回復を図る
ターゲット10 2015年までに、安全な飲料水を継続的に利用できない人々の割合を半減する。
ターゲット11 2020年までに、最低1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善する。
ターゲット12 開放的で、ルールに基づいた、予測可能でかつ差別のない貿易及び金融システムのさらなる構築を推進する。(グッド・ガバナンス《良い統治》、開発及び貧困削減に対する国内及び国際的な公約を含む。)
ターゲット13 最貧国の特別なニーズに取り組む。(①最貧国からの輸入品に対する無関税・無枠、②重債務貧困諸国に対する債務救済及び二国間債務の帳消しのための拡大プログラム、③貧困削減に取り組む諸国に対するより寛大なODAの提供を含む)
ターゲット14 内陸国及び小島嶼開発途上国の特別なニーズに取り組む。(バルバドス・プログラム及び第22回国連総会の規定に基づき)
ターゲット15 国内及び国際的な措置を通じて、開発途上国の債務問題に包括的に取り組み、債務を長期的に持続可能なものとする。
ターゲット16 開発途上国と協力し、適切で生産性のある仕事を若者に提供するための戦略を策定・実施する
ターゲット17 製薬会社と協力し、開発途上国において、人々が安価で必須医薬品を入手・利用できるようにする。
ターゲット18 民間セクターと協力し、特に情報・通信分野の新技術による利益が得られるようにする。
出典 (http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/)

3) WSSD

2002年、8月26日から9月4日まで、リオで採択されたアジェンダ21の見直しや新たに生じた課題等について議論するために南アフリカのヨハネ スブルグでWSSD(持続可能な発展のための世界サミット)が開催された。リオの国際サミットから10年目なので当初はリオ・プラステンと呼ばれていた。 約190の国や地域から首脳や政府関係者、またNGOや市民団体など約6万人が参加し、持続可能な開発の実現へ向けての決意表明である「ヨハネスブルグ宣 言」とその実行計画である「世界実施文書」が採択された。先進国と発展途上国の間のいわゆる南北問題が鮮明化し、結果として譲歩と妥協の多い内容との批判 がなされている。
WSSDの詳細については国連のホームページ及び外務省のホームページを参照されたい。
参考までにヨハネスブルグ宣言で述べられたことについて何カ条かについて表5.に示しておく。第27項のように政府だけでなく民間の役割をも規定しているところに特色がある。
表5. ヨハネスブルグ宣言(抜粋)
7. 我々は、人類が今分岐点に立っていることを認識し、貧困撲滅と人類の発展につながる現実的で目に見える計画を策定する必要に応じるために、確固たる取組みを行うとの共通の決意で団結した。
8. 30年前に、我々は、ストックホルムにおいて環境悪化の問題に緊急に対処する必要性について合意した。10年前に、リオ・デ・ジャネイロで開催され た国連環境開発会議において、我々は、リオ原則に基づき、環境保全と社会・経済開発が、持続可能な開発の基本であることに合意した。そのような開発を達成 するために、我々はアジェンダ21及びリオ宣言という地球規模の計画を採択したが、我々はこの計画への公約を再確認する。リオ会議は、持続可能な開発のた めの新しいアジェンダを決定した重要な画期的出来事であった。
11. 我々は、貧困削減、生産・消費形態の変更、及び経済・社会開発のための天然資源の基盤の保護・管理が持続可能な開発の全般的な目的であり、かつ、不可欠な要件であることを認める。
12. 人間社会を富める者と貧しい者に分断する深い溝と、先進国と開発途上国との間で絶えず拡大する格差は、世界の繁栄、安全保障及び安定に対する大きな脅威となる。
15. 我々は、これらの地球規模の格差を固定化する危険を冒しており、また、我々が貧困層の生活を根本的に変えるような方法で行動しない限りは、世界の 貧困層は、彼らの代表と我々が公約している民主的制度に対する信頼を失い、その代表者たちを鳴り響く金管楽器かじゃんじゃんと鳴るシンバル以外の何もので もないとみることになるかもしれない。
27. 我々は、大企業も小企業も含めた民間部門が、合法的な活動を追求するに際し、公正で持続可能な地域共同体と社会の発展に貢献する義務があることに同意する。
出典 外務省ホームページ < http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/wssd/sengen.html>

2. BOP (Bottom of the Pyramid)

縷々、国連の取組を述べてきたが状況は改善どころか悪化の一途をたどっているといって過言ではない。そうした状況の中で、国や国際機関でなくビジネスとマーケットメカニズムで解決しようという動きもでてきている。その一つがBOPである。
BOPはインターネット上のフリー百科事典ウィキペデイア では次のように記されている。 「経済学では、BOPは最大だが社会経済的に最貧のグループをいう。一般的には、途上国において典型的な、1日2ドル以下で暮らす40億人のことをさす。 専門用語としての”BOP”は特に、意図的にそのようなマーケットをターゲットにした、典型的には新テクノロジーを用いる新しいビジネスモデルを開発しよ うとしている人々、が使っている。この分野では時に”Base of the Pyramid”もしくは単に”BoP”として言及されている。」(仮訳) 大恐慌後に米国大統領フランクリン・ローズベルトにより使われたようだが、現在の意味の使われ方をはじめたのは1998年にミシガン大学の Praharad教授たちの提唱によるもののようである。 誤解を恐れずに一言でいえば、貧しい人々を犠牲者としてみるのではなく、創造的な起業者、消費者としてみる、ということである。当然のことながらビジネス の対象となり得ないという批判はついてまわるが、国連グローバル・コンパクトのラーニング・セッションで取り上げられたりしている。
また、世界銀行もグループのIFC(International Finance Corporation)が米国のシンクタンクのWRI(World Resource Institute ) と共同で『THE NEXT 4 BILLION』 という調査レポートを発行している。世銀グループは日本でも2007年5月に「BOPビジネスとCSR」と称するシンポジウムを開催している。
要するに、格差の是正をマーケットメカニズムの中で実現していこうという方向性の動き、と理解してよい。

3. 気候変動

前述した国連の賢人会議、ブルントラント委員会の報告書”Our common Future”では、西暦2000年までに持続可能な開発を達成することを提案しているが、達成どころか気候変動をはじめさまざまな要素は悪化の一途をたどっている。
2007年2月にIPCC第4次レポートの第一作業部会のレポートの一部がSPM(Summary for Policy Makers)として公表され、以後4月、5月にも第二、第三作業部会のSPMが公表され、2007年11月には全文が公表される予定である。 IPCC(Inter-governmental Panel for Climate Change)は1998年にWMO(世界気象機関)とUNEP(世界環境計画)により設立された国連機関である。詳細はウェブ で検索していただくとして、世界中の様々な観測データや知見を蓄積、世界中の科学者数千人が分析、討論して報告書をだしている。 第4次レポート第一作業部会のSPM では温暖化は「very high confidence」で「net effect of human activities since 1750」といっている。すなわち産業革命以来の人間活動の影響であると、大変高い確信でもって断言している。科学は将来のことは証明できないのですべて 蓋然性の表現となるが、このレポートでは「very high confidence」は90%以上の蓋然性との注がつけられている。ちなみに第3次レポートではこれが「high confidence」で、この場合は80%以上との注であった。将来予測は、人類社会がどのような社会経済システムを選択するかに影響されるので6つの シナリオで予測されている。最悪のシナリオはA1FIシナリオで、これは化石燃料に頼った現在の経済社会システムの延長線(BAU, Business as usual)での予測であり、最大で摂氏6.4度の上昇が懸念されている。参考までに6つのシナリオでの予測値を表6.として記載しておく。

表6. 気候変動シナリオ別予測環境影響

Table SPM-3. Projected globally averaged surface warming and sea level rise at the end of the 21st century. {10.5, 10.6, Table 10.7}

Temperature Change
(°C at 2090-2099 relative to 1980-1999)
Sea Level Rise
(m at 2090-2099 relative to 1980-1999)
CaseBest estimateLikely rangeModel-based range
excluding future rapid
dynamical changes in ice flow
Constant Year 2000
concentrations 0.60.3 - 0.9NA
B1 scenario1.81.1 - 2.9 0.18 - 0.38
A1T scenario2.41.4 - 3.8 0.20 - 0.45
B2 scenario2.41.4 - 3.8 0.20 - 0.43
A1B scenario2.81.7 - 4.4 0.21 - 0.48
A2 scenario3.42.0 - 5.4 0.23 - 0.51
A1FI scenario4.02.4 - 6.4 0.26 - 0.59
出典 http://ipcc-wg1.ucar.edu/wg1/wg1-report.html

1971年にガイア仮説を世に問い、地球システム科学の緒を開いたジェームズ・ラブロック博士は2006年に『ガイアの復讐』 を出版している。多くの反論がなされているが、このままの延長線上(BAU)では21世紀末には人類どころか地球上の生命が絶滅する確率が極めて高いこと を述べている。 ところで、気候変動が最貧国に与える影響は甚大である。スターン・レビュー・レポート には次のような文言がある。
「気候変動の影響は均一に起こるものではなく、最貧国とその国に暮らす人々が、いち早くまたより大きな影響を受ける。そして、被害が顕在化してしまった時 には、すでにそのプロセスを止めるには遅すぎるのである。したがって、我々はかなり先を見据えて対策を実施しなければならない」 環境省の報道発表 では「スターン・レビューは、昨年10月、世界銀行の元チーフ・エコノミストで、現在は英国政府気候変動・開発における経済担当政府特別顧問であるニコラ ス・スターン博士が取りまとめ、英国首相と財務大臣に報告され、昨年12月には、ナイロビ(ケニア)で開催された気候変動枠組条約の締約国会議 (COP12)でも紹介されました。」とある。 なお、本稿執筆時、2007年6月ドイツでの世界の首脳の集まりG8で、2050年に温室効果ガス50%削減について真剣に検討することが合意された。宣 言での政治的なレトリックはさておき、要は、気候変動は人為起源であり、安定化させないと人類は破滅しかねないことが共通認識されたのである。しかもこの 取り組みは、ここ10~15年がキーポイントといわれる。まさに、人類が傷つけた地球システムを全人類で修復しなければならない課題で、達成にはあらゆる 倫理の総動員も必要となろう。

4. ケニアで見聞したこと

2007年1月下旬にケニアに出張した。目的は生物多様性の体験見学であったが、国連環境計画(UNEP)本部訪問及びナイロビのスラム見学をサブ目的としていた。生物多様性は本稿のテーマではないので省く。
ナイロビのスラムの一部をUN-HABITAT(国連人間居住計画)の現地ボランティアに案内してもらい見学した。
日本の戦後の闇市場に似ているとの感想を洩らす日本人が多いと聞いたが、そんなものではない。闇市場はもっと活気があり人々には希望があったように思う。むしろ、すさまじい差別を受けていた朝鮮の人々の筵がけ小屋の部落に近いと思う。
とにかくナイロビの人口300万のうち6割の180万人がスラムにいるという現実、救いは子供の笑顔というものの、ほとんどが父なし子・母なし子で学校に もいっていない。しかも65%がHIV/AIDSで垂直感染だという。貧困の再生産そのものである。ケニアを取り巻く諸国のうち南のタンザニアを除けばエ チオピア、スーダン、ソマリア、ウガンダは内戦もしくはたまたま収束している状態にある。ことごとく社会が崩壊しているといって過言ではない。
この社会崩壊の原因は何だろう。牧畜民と農耕民の内戦は気候変動による乾燥化が拍車をかけていることも事実であろうが、もっと根本的な原因があるはずである。
数年前のダボスの世界経済フォーラム(WEF)で突如「アフリカを救え」という声が湧き出た。私はそれをテレビで見たとき、またヨーロッパの陰謀が始まっ たと感じた。私の認識ではアフリカ社会の崩壊は奴隷貿易と欧州各国による植民地化が原因である。前述したWSSDが開かれた2002年の6月にヨハネスブ ルグでISO/TC207(環境マネジメント)の総会があり出席した。基本的には隔離された国際会議場のある郊外の一角からは外にでることを止められてい たが会議の合間に半日ほど外にでてみた。といってもタクシーで街中を通り抜けただけであるが、町にたむろする原住民、すなわち黒人を見、鉄条網で警備して いる白人の大邸宅を見たとき、すさまじい歴史の負の遺産を実感した。欧米人が「アフリカを救え」と叫ぶのは、アフリカを崩壊させた欧州、並びに黒人奴隷の 受入国の米国が、そのツケを人道の名を借りて世界に回すだけのものと考えたのである。2007年6月のG8での議題にもAfricaがあり、「アフリカに おける成長と責任」 という63項目からなる文書が採択されているが、内容については省略する。
ところで、ダボスのWEFといえば、世界社会フォーラム(WSF)に触れねばならない。ちょうどケニア訪問時期にナイロビ郊外の町で6万人が集まって開催 されていたとのことである。数年前のWSFでは15万人も参加していたような集まりとのことであるが、少なくなったといっても6万人である。日本ではテレ ビでWEFのことは頻繁にながしていたようだが、WSFのニュースは見たことが無い。また、国内では一部の専門家以外では議論にもならないが、ダボスの WEFでは猛烈に意識しつつ表面は無視を決め込んでいるようである。突如「アフリカを救え」というような声が出されたのも、突如ではなくWSFを意識して のことという人もいる(筆者はどちらにも参加経験はないので本当のところはわからないが)。
 欧州人にいわせると、アフリカ社会の崩壊は現地の指導者の腐敗が原因ということのようである。たしかに援助漬けのケニアの大統領の給与がブッシュ大統領やトニー・ブレア首相と同じと聞くと、そうかもしれないと思いかねない。
しかし、植民地政策と奴隷貿易で社会を破壊してしまったからこそ、そんな指導者しかもてないようにしてしまったのではないか。
というようなことを評論家のように述べてもアフリカやその他の最貧国の人々には何の役にも立たない。まさにナイロビのスラムを見て考えさせられたのは、最貧国の救済についてわれわれは何をしなければならないのか、何ができるか、ということである。

5. NGOの役割

NGO(Non Governmental Organization)は国連用語であった。国連は各国政府から構成されており、それ以外は如何なる代表権ももたない。しかし、前述したリオ宣言にあ るように環境問題の解決には市民参加が必要との認識がなされるようになってきている。すなわちネットワーキング、パートナーシップ社会の方向性であり、こ れはヨハネスブルグ宣言の中でも第8項にて確認されている。政府以外はすべてNGOということになるとあまりにも広すぎるので、最近では、企業等について はPrivate Sectorと呼び、日本で言うNPO(Not for Profit Organization)等についてはCivil Society(CS)もしくはCivil Society Organization(CSO)と呼ぶのが一般的である。したがって本稿で「NGOの役割」ということは「企業」と「CSO」の両者の果たす役割を意 味している。
さて、冒頭から国連の動き等も紹介してきたが、問題解決は遅々として進んでいないといってよい。国連や政府間で話されている債務免除や資金援助は、どう考 えても根本的解決にはたいして役に立つとは思えない。役立たせるには受け皿としてのそれなりの指導者が必要だが、それがない。つまり、どうどう巡りなので ある。グローバルにはアジアを除き貧困状態は悪化している。西欧社会の民主主義とは少し異質かもしれないが、アジアの場合は「強い指導力のもとで教育を普 及したことなど」 が指摘されている。
すなわち、ある一つの国なり文化が存続する、つまり崩壊しないためには、そこに属する人々の中から社会をgovernする志を持ったすぐれた指導者がでて くることが必須であると考える。そうした見極めができれば政府支援も機能するかもしれないが、見極めは容易ではないし、そうした指導者を持てていない場合 は如何ともしがたい。
政府だけではできないとすれば、ここに政府以外のセクターの果たすべき役割があると考える。CSR(Corporate Social Responsibility)をメインテーマとして活動しているCSOの一員として、企業とCSOが果たす役割について考えてみた。
企業にとって事業で利益を稼ぎ出す可能性のある地域に進展していくのは本来のビジネス目的でもあるし、またライバルにあるマーケットを席巻されてしまうこ とは巨大多国籍企業にとっては大きなリスクなので進出自体が必須といえよう。しかし最貧国では、鉱石や化石燃料などの資源産業は別として利益を稼げる可能 性は低い。仮に、利益は目的としないまでも赤字の垂れ流しは容認されることではないので最低限ブレーク・イーブン・ポイント以上が期待できなければ進出は 不可能である。更に、仮に期待できそうとしても様々なインフラが整っていない。最大のインフラはワーカーであるが人はいてもワーカーがいない。
さまざまな取組の中で成功している事例はあっても、当事者の献身的努力の上に偶然にも諸条件がかみ合ったものであってシステム的とは考えがたい。献身的努 力がすべて成功しているわけではないのである。成功事例を集め、そこからエッセンスを抜き取り、システム的なビジネスモデルを作り挙げることも必要かも知 れないが筆者の手にあまる。ここでは、いくつかの事例を頭に置きながらシステム的なビジネスモデルの1)構成要素、2)関係性、3)駆動力について考えて みた。分野的には次の2つを前提にしている。
多くの最貧国(LDC)では一次産品しかないことを考えるとフェア・トレードは必須と思われる。
また、軽工業による雇用の創出がもっとも期待されることと考えるが、社会がある程度安定していることは当然の前提としている。

1) 構成要素
① 現地でのパートナー等
一次産品の生産者。それらをコントロールする誠実な行政マン。一次産品を束ねる誠実な貿易商。等。
軽工業のパートナー足りうる事業者。非熟練だが教育をすれば使えるワーカー予備軍。以上のようなことについての信頼できる情報。およびそれの信頼性を相当程度担保してくれる人もしくは組織。等。
② 先進国のパートナー等
最貧国や途上国で何らかの本業での寄与・貢献をせねばならないと考えている先進国の経営トップ。軽工業品についての技術、特許、資金、ニーズ、販路等。最 貧国や途上国についての信頼できる情報。その情報等の信頼性を相当程度担保してくれる人もしくは組織。フェア・トレードでは消費者の支持。等。

2) 関係性
ビジネスの基本は「信」であり、信用、信頼の無いところではビジネスは継続しない。保証証券などの先進国での経済的手法の活用は殆ど考えられないことか ら、「信」は当事者個人の個別の「信」、すなわち内心の問題となる。これはビジネスマンがすべての当事者について確保することは不可能であり、ここに両国 の間で永く深い関係を維持しているCSOの機能がある。
もう一つは、特に最貧国からは儲けを持ち出さないという理念である。NPOの場合は、事業を行って利益を出してもよいが配当には廻せない。企業の場合、利 益は出さねばならないが、特に最貧国ではNPOと同様に利益は現地での再投資もしくは現地配分に廻すという理念とコミットメントである。

3) 駆動力
関係当事者の「思い」、「志」であるが、先進国関係者の中で特に経営トップにこれがなければ動かない。

 このようなことを考えるに、最貧国や途上国で活動しているCSOがこうしたシステムを構築していく上でのキーパーソン足りうることに気がつく。もちろん ビジネスマンでもそうした国の実情を知る人の中からキーパーソンが生まれることは否定しないがシステム的とは考えがたい。 明治民法以来、CSOを創らせない、育てないとしてきた日本システムは上記システムの構築には大きな弱点を抱えている。状況が悪化すればするほどCSOに もせっつかれる欧米企業は前述したBOPの動きのような中で様々な取り組みに着手していくことも予測される。その場合、何もしない、何もできない日本企業 ということで欧米先進諸国内での評判(reputation)が大きく傷つくことが懸念される。無形資産価値が企業価値の大きな割合を占めるこれからの社 会ではReputation riskのマネジメントは経営の重要課題のはずである。
また、CSOを創らせない、育てないとしてきた日本システムではCSOの層がうすく、欧米のように、アンチ企業/プロ企業、アンチ政府/プロ政府、という 正反対の活動をするCSOが多数混在し、それぞれが機能を果たしている、という状況にはない。欧米では、企業や政府と徹底的に対立するCSOと、逆に企業 や政府と一緒になって活動するCSOがともに機能しているのである。このことは結果として日本企業とCSOの距離を遠ざけている。すなわち、欧米にキャッ チアップするためにCSOという非営利組織を削ぎ落として発展してきた日本システムは、パートナーシップ社会という21世紀システムに対して大きな欠点を かかえているのである。
筆者の経験した事例を紹介する。2006年に、朝日企業市民賞の外部専門委員として選考にかかわった。現地の企業家が2000人規模の工場も起こしている ことなども評価して、住友化学のマラリア対策の化学物質を含む蚊帳のプロジェクトを選んだ。しかし、永く真摯な活動をしている日本のあるCSOから人を介 して私には批判が寄せられた。批判にはそれなりの理由があることは重々承知した上で反論しておいたが、ウェブ上でも批判が続けられているので納得していな いことは明確である。むつかしい問題である。   以上