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地球システム・地球倫理の確立に向けて

地球システム・地球倫理の確立に向けて
吉田収

1.地球システムの危機

人類文明の相互に関連する地球問題群は生物種全体を第六次大絶滅に向かわしめた。三千万種の中の唯一つの種に過ぎない人種は物と力の文明 (civilization=都市化、 civitas=「都市」(城市)から)追求によって環境・生命系に癌の如く母体である地球生命システムを破局に向かわせている。仏陀の言「世界は燃え る」は今や文字通り地球温暖化となり、気候の激変異常を来たし、熱帯雨林や珊瑚礁は消え、地-水-空は汚染され、生息域は消え、生物種も絶滅している。世 界中の氷河、氷山は溶け、大西洋湾岸流は一時止まり、南-北極の氷解により5mから17mの海面上昇が恐れられている。地下水位も下がり、河川は干上がり 水源を失い、砂漠化、都市化で土地は失われ、資源も枯渇する。他方人口は鰻登りで、欲望も消費もそれに輪をかけて上がる。日毎のニュースはこれらの更に危 機的、破局的予測を増す一方る。
物と力、それを買う金の「金字塔文明」は錯誤、束縛、差別、搾取、殺戮(五禍)を増している。錯誤は空間、時間、次元(俗超俗)の三つが考えられるが、体 系的、一般的には「部分を全体とする」大小の誤判断に要約できる。錯誤は欲望、嫌悪に発展し、三毒(貪瞋痴)として、行為、習慣となり三道(惑-業-苦) に至る。地球問題群は地球システムの真理と倫理の妄想(惑)と盲動(業)による猛苦と言える。その大小倒錯の妄信、妄進を止める事(止業)、思想・行動の 枠組転換(パラダイム・シフト)と生活転換(ライフ・シフト)が必要である。心と命の「一円相文化」の(真理)覚醒、自由、平等、博愛、平和(五福)の成 就こそ地球問題群の解決である。

2.地球システム学の要請

宇宙システム〈体系〉の開始は様々な体系を展開させてきた。地球システム内では人類の生産〈物〉、社会〈力〉、精神〈心〉の三革命が文明、文化を発展させ たて来た。無限の欲望は有限の生命系を脅かして現在の危機に至った。仏教で言う凡夫/異生(大衆/吾我:パーリ語: putthu-jana=サンスクリット語:prithu-jana、prithag-jana)は「惑-業-苦」の三道にありながら集団的(幻想)であ る故に「妄想-盲動-猛苦」に気付かず、変えない。吾我-集団であり現代文明の重要要素である、国家、企業、宗教、教育、媒体の五仮構体 (fictitious bodies)は地球生命システムの危機を増しながら、惑業苦解決の知識-行動をもたない。知識があっても行動が伴わず、智恵-実践にならず、知行合一に 至らない。学問も自然「科」学に範を取り「分科」の学となり、価値自由、責任不問と地球生命システムを総合的に扱って来なかったが、地球問題群の解決には その「真理」と「倫理」を確立し、しかも「知」「行」合一が要請される。
地球問題群は人種が動物である事と人間である事(特にSelf, Society, State, Species, Symbolismの5S)によって「我」見-欲-業を強化し集団「我」の国家、企業、宗教などの問題を生んできた(5S はFrancis Baconの 4 idolaを借用、最後の象徴主義を加えたもの。シンボルを操る動物、人間の象徴主義についてはErnst Cassirerを参照)。「我」を超えるかに見える「国家」、「宗教」、「企業」(「愛国」「愛社」等)も根底に(我見、我欲、我業の)錯誤、束縛があ り、差別、搾取、殺戮に走って反省しない。反省しないどころかこれらを正義や使命とする。「我」の正義は「全」の正義ではないことが我見、業縛により分か らないのである。人は差別から疎外し、矮小化し、貧弱化する。都市(城市)の壁はこれを良く表し、都市化は「文明」(物の豊富と力の利便)とされる。「都 市国家」は城内外を別けて戦争、奴隷、異人、異種を差別、搾取、殺戮したが「民族国家」は戦争の世紀を生んだ(二十世紀は「国家と戦争の世紀」と呼ばれる が、両者は不可分)。家や人や心の壁は疎外化、貧弱化、罪悪化となる(sin=separation:分化、:俗, その超克がholy= wholesome whole:合一:聖)。これが近代「科学」技術により強大化して地球問題群を生んでいるのである(6S: simplification, specialization, standardization, size, speed, synergy:単純化、専門化、標準化、大量、高速、累力)。
問題すべてに通底するこの疎外化、貧困化(具体的には「我」、その「三毒」)の問題を抜きにして根本的解決は得られない。観念、感覚、感情、意志などの根 底に至り、それらとその世界、境涯を含め、それらの行き方、生き方を総合的に解明、解決する必要がある。従って、「根本的」、「全体的」、「動態的」、 「予防的」な智恵と実践が求められる(根本に帰り、全体を見通し、活達に連動し、体系的に無害)。それは「一切をシステムとして」扱い、「縁起の法(相 依、相対)により」対処することである。
特に環境-生命-文明-文化システム(体系)の相互関連、価値関係、動態分析、実践理論、成果普及等の解決策、実践行が望まれる。体系分析 (System Analysis)の要素として最高体系、上位体系、下位体系、部分、構造(5S: Supreme-system, Super-system, Sub-system, Segment, Structure)や、その動態は源泉、保有、使用、供給、余剰(5S: Source, Stock, Spending, Supply, Surplus)が考えられる。現代文明は体系症候群(System Syndrome, 5S: Size, Speed, Snergy, Stratification, Stress: 大量、高速、累力、階層化、歪)や体系恥辱(System Stigma,5S: Simplification, Specialization, Standardization, Separation, Stupefication: 単純化、専門化、標準化、分離化、麻痺化)に犯されている。だから根本的枠組転換(Paradigm Shift, 5P: Perspective, Priority, Participation, Practice, Penetration: 全体視野、優先順位、参加、実践、一切透徹)が必要であり、日常常時の生活転換(5C: Consciousness, Communication, Compassion, Cooperation, Commitment: (地球)意識、交流、共感、協働、献身)が欠かせない。大体系の目的、存続 (地球生命システム:大海)のために小体系(我中心システム:泡沫)を変える枠組転換、対策、実行も緊要である。

3.地球倫理実践の要請

部分的五仮構体を超えた全体的「地球規模の地球生命中心」の普遍的倫理(地球倫理)が必要である。行為は結果を生むので個体の得失だけでなく全体の利害を 考慮しなければならない(行為-結果分析:5R: Risk, Return, Response, Result, Responsibility: 危険、報復、反応、結果、責任)。世界宗教会議の「地球倫理宣言」が提示した世界諸宗教共通の4原則(仏教の五戒、十戒の最初の4、ユダヤ-キリスト-イ スラーム教の十戒の第6以下など)は地球生命システムの健全に資し、価値の序列、範囲や行為の結果、責任を考慮した普遍的規範であり、「生き方」(way of life)であり「生への道」(way to life)である宗教のみならず一般の倫理規範となるべきものである。(元国家元首や学者によるインターアクション・カウンシルは法律形式にして「普遍人 間義務宣言」として国連より公布するよう要請したが米国の反対で棚上げされている。)
第一の「不殺」は生命の不可逆、不可換、不可償の故に最重要事である。これは一切に優先し、これが無ければ一切の可能性が絶たれるのであるから他の一切と 別次元の事柄である。時空一切のお陰(因縁、縁起)により交流、交響している生命は宇宙的なものである(泡沫的我は生滅するが大海的命は普遍永遠であり、 自己を泡沫と観念すれば生滅は免れず、大海と覚悟すれば永遠生命が得られる)。動植物を問わず生きとし生けるものは40億年の生を一切と共に全うしている 遺伝子の顕現であり、ここに平等の根拠がある。それを奪う権利は何者にも無く、何者にも委譲出来ない(国家も仮構体であり、実際の政治等は一部集団の暫定 措置に過ぎない)。
「不盗」は生命の(物質的)資(糧)を奪わず、「不偽」は(社会的)支(持)を失わず、「男女の平等な協働(不淫)」はその(世代的)嗣(子)を乱さない ことである。目先の生業に囚われ最後の木を伐って殺し合い、喰い合った「イースター島の悲劇」を「地球の悲劇」にせず「子肉を食う」ことなく、取り返しの つかぬ破目に陥らぬ為に地球倫理の確立が必須である。システムの真理を知らず、行えないのは小児見、小児行、小児病に過ぎない。この倫理の普及と実践が急 務であるが、その実現法開発、協働行実践も重要である。

地球システム・倫理の確立

地球生命系を破壊する「文明」の有限な「物と力」への執着、束縛による闇黒の死より、「文化」(culture:耕作、陶冶、修養)の無限の「心と命」の 自由、解放による光明の生が根源的である。これを再発見、再確認しなければならない。生命・環境を第一とし、文化の「真善美聖」の価値の再創造が必要であ る。生命系は地球体系の在り方(法則:5S:Systemic, Sustainable, Saving, Safe, Simple)と地球倫理の生き方(方法:5L:Law, Life, Love, Liberation, Lielessness:地球倫理の四原則に根本原理の縁起・因果法を加えたもの)を根本として、生活の物資流は5R(Reduce, Reuse, Recycle, Rearrange, Restore)情報流は5A(Access, Assess, Agree, Act, Advise)を認知、実践することが大切である。地球体系の真理と倫理が明確にされ、一切に確立され、無限の生命が享受されることが一切に願われること である。大体系(海〉は亜体系(泡)より大きく、包含する故に、「真理のみ勝ち」、「倫理のみ克つ」のであり、その惑業苦から覚行楽への正命(ショウミョ ウ:正しい生き方)こそ個体と全体の解決法である。
個体の苦・死のみならず、地球全体の死・苦をもたらすのは惑-業-苦、三道の歩みである。それを覚-行-楽に変えるのが個体にも全体にも無限の生・楽をも たらす。無限豊富な真実・生命を有限貧弱な戯論・虚業に歪曲、矮小すべきでない。最下の泡沫的吾我から解放されて、無上の大海的生命に生きる事は誰にも何 時何処でも可能である。それは最初の精神革命の軸時代に物と力の五禍から心と命の五福へ大枠組転換をした先人、後継によって明らかに、具体的に体現されて 来た。道元の三心(大心、老心、喜心)を養い、「山河大地心」を育てることである。それは今無いものを得るのでも、新しく創るのでもなく、今ここに実現出 来るものである。それは業(行動・習慣)を先ず止め、更に整える事、具体的には安坐、安息、安心(調身、調息、調心)する事である。そこに何千年も一切と 共に生きる樹の営み、慈しみがある(常緑の命の樹tree と永遠の真実trueは同根。「菩提達磨が仏道・禅定を伝えた意義とは?」の問いに「庭前の柏樹子」答)。そうすれば帝釈網の結び目の水晶は宇宙一切を写 す一粒の透明な真珠(「尽十方一顆明珠」)となって輝く。