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持続可能性に向けての環境学習の現状と課題

持続可能性に向けての環境学習の現状と課題
永菅 裕一

はじめに

環境問題が深刻化、複雑化する中で、将来の世代に地球の豊かな環境を引き継いでいくためには、現在のライフスタイルを見直し、持続可能な循環型社会 経済システムへの転換が不可欠である。そして、「Think Globally,Act Locally」(地球規模で考え、足元から行動を)といわれるように地球環境保全のためには、1人ひとりの具体的な行動が非常に重要である。

1-1 研究目的

環境学習(学校・団体・地域)の現状と課題を明らかにし、持続可能性に向けての環境学習の効果的な方法を提案することを本研究の目的とする。

1-2 研究対象および方法、各用語の定義

【対象】:本研究の対象は、学校・団体・地域とした。 【研究方法】:本研究は、下記の4つの方法により実施した。

  1. 環境学習の現状と課題について先行研究を調査
  2. 各小・中学校、団体組織へのインタビュー・フィールドワーク(以下FWと記す)
  3. 小・中学校へアンケート調査(本会報では字数の関係で省略)
  4. 事例の比較、分類、評価(量的・質的)を行い、環境学習の現状と課題を抽出し、持続可能性に向けての環境学習の効果的な方法を考察・提案した。

・環境学習の定義 体験を重視し、自分を取り巻く環境に学習者が、自ら気付くきっかけとなる学習を環境学習と定義した。 ・持続可能性に向けての環境学習の定義 自然、環境、生態系、そして、人間同士の関わり合いのなかで、人間が自己の存在を、総合的に把握する学習 を持続可能性に向けての環境学習と定義した。

2-1 環境学習の現状と課題

本研究では、64の環境学習の事例を扱い下記表 1 環境学習事例の分類のように6つに大きく分類した。

表 1 環境学習事例の分類

小学校 中学校 大学 団体 施設 イベント 合計
14 6 3 23 7 11 64

さらに、各事例の実施関係を下記の図 1 事例の実施関係による分類 に示す。 各事例の実施関係

2-2 環境学習の量的・質的比較

子どもの参画度を見るロジャー・ハートの「参画のはしご」(下図2)を基に一部の事例の量的な比較を行った。 また、トビリシ宣言と小澤紀美子氏の論文、現状調査を基に8つの項目を挙げ(下図3)、事例の質的な比較を行った。

各事例の実施関係

2-3 環境学習の現状(分類・比較結果)

上記調査内容から、特徴的な環境学習の事例と分類、質的・量的な比較結果を示す。
【環境学習を行っていない】
・夢野中学校(神戸市)(質レベル0)(比較外)
いじめ対策、国際教育、地域との防犯の取り組み
【団体単独で実施】
・プロジェクトWILD・WET 質レベル:4
自然、水の環境学習プログラムを実施し、指導者を育成する。
【学校・団体の協働で実施】
・神野小学校(宍粟市)量レベル3、質レベル6
ひょうご環境創造協会・大学生とエコクッキング実施
【学校・地域の協働で実施】
・神崎中学校(神河町)質レベル6
地域の人と炭焼きの実施
【学校・地域・団体の協働で実施】
・甘地小学校(市川町)量レベル6、質レベル8
3Rの授業、企業の指導、家庭の牛乳パック回収の実施
・NPO法人こども環境活動支援協会(LEAF)(西宮市)量レベル6、質レベル8
環境学習の中間支援、エコスタンプカード、学校と企業仲介を行う。

2-3 環境学習の課題

私自身が、環境学習の現状を調査した結果から、下記の7点が環境学習の課題として挙げられる。

  1. 子どものニーズの多様化、学校で教える教科・内容の集中で環境学習ができない
  2. 甘地小学校の先生の話から、子どものニーズが多様化しており、子どものニーズにあった環境学習を一つの小学校だけで、行うことは難しいという課題を伺っ た。また、夢野中学校の事例ように、実際に、総合的な学習の内容も国際理解、健康、福祉であることから、環境学習が行いにくいという課題が挙げられる。
  3. 他の団体との連携が困難
  4. プロジェクトWILD・WETの事例のように、指導者を育成しているが、他の団体と連携して実施することが難しいということがあげられる。
  5. 効果が定量化できず、普及しにくい
  6. どの環境学習でもそうだが、実際に効果を定量化して示すことが難しく、そのため普及しにくいという課題が挙げられる。
  7. 家庭への浸透や普段の活動と結びつきにくい
  8. 神野小学校の先生の話から、学校で学んだとしても、家庭へ浸透することが難しく、そのことから普段の活動への結びつきが難しい。
  9. 継続、問題解決が難しい 
  10. 環境学習に熱心な先生の転勤や、環境学習指定校が終われば、環境学習を行わなくなるということから、継続・問題解決が難しいという課題が挙げられる。
  11. 導者の環境学習の実践の場が少ない
  12. プロジェクトWILD・WETの事例のように、指導者になっても実際に実践する場が少ないことも課題である。
  13. 子どもが参画している状況が少ない
  14. 実際に子どもが提案して、行動に移すような授業も少なく、子どもが主体的に活動していることは少ないと考えられる。

上記のことをまとめると、時間の制約や子どものニーズの多様化への対応、他の団体との連携、家庭への浸透、行動改善、実践の場、子どもの参画、継続性などの課題が挙げられる。

3-1 持続可能性に向けての環境学習の考察および提案

以上の環境学習の現状と課題を明らかにした結果を基に、6点の考察および提案を行う。

  1. コーディネーターを活用した地域・他の団体と連携した環境学習
  2. 課題に挙げられた他の団体と連携することが難しければ、団体をつなぐコーディネーターと呼ばれる人や団体をうまく活用すれば、その団体の仲介の元で、環境 学習をうまく進められると考える。そうすることで、課題に挙げられている子どものニーズの多様化にも対応できると考える。
    具体的な事例としては、神野小学校とひょうご環境創造協会の連携や小学校と企業の連携が挙げられる。その場では、大学生や、LEAFがコーディネーターの 役割を果たしている。そのためにも、コーディネーターの育成が重要となる。また、プロジェクトWILDやWETで講習を終えた指導者とうまく連携を図って いく必要があると考える。
  3. 実際の社会行動につながる環境学習
  4. 課題で挙げられていたように、実際の行動につながりにくいことや普及しにくいのであれば、活動そのものが環境改善や社会行動につながる環境学習が重要であると考える。
    具体的には、菜の花プロジェクト(菜の花を育て、油を絞り、その油を燃料にして、ゴーカート・バスなどを走らせる取り組みで化石燃料に依存しない循環型社 会を目指している。)、キャンドルナイト(「電気を消してスローな夜を」を合言葉に全国でろうそくを灯し、自発的な環境啓発運動のきっかけを提供してい る)が挙げられる。そのようにして、普段の行動が環境改善につながれば、課題に挙がっていた家庭への浸透も可能になると考える。
  5. 現状の問題解決を含めた環境学習
  6. さらに、課題に挙げられた問題解決が難しいのであれば、現状で問題になっていることを環境学習として対応すれば、その問題解決とともに環境学習も行うことができ、非常に有効な手段となると考える。
    具体的には、棚田保全の問題から、棚田再生や活用を考えた環境学習や廃校を利用した環境学習が挙げられる。そうすることで、現状の問題解決と環境学習の両方が行われ、一石二鳥の取り組みになると考える。
  7. 環境学習の実施場所の増加
  8. 実施場所が少ないのであれば、実施場所を増加することが挙げられる。これは、兵庫県庁の環境学習課から得た具体的な事例だが、幼年期からの環境学習で実施 場所を増加するということである。増加するときに重要であるのが、①や②や③の提案でも述べたように、プロジェクトWILD・WETの指導者や他の団体と うまく連携し、持続的に行動改善・現状の問題解決につながることが非常に重要であると考える。
  9. 子どもが主体的に参画する環境学習の増加
  10. 課題で挙げられたように、子どもの主体性が少なければ、環境学習の目標である「自ら行動できる人」を育てることは難しいと考える。だからこそ、子どもの考えを尊重した環境学習が重要ではないかと考える。
    先行論文に挙げられていた具体的な事例としては、子どもが、川が汚れているという環境について学んだ後、実際に行政に質問事項を送って質問し、その後子どもの提案によって、「川にごみを捨てないようにしましょう」という立て札が掲げられたうことが挙げられる。

以上のことをまとめると、実施関係の分類の結果から、単独で実施するよりも、学校・団体・地域協働で実施している方が、継続的に実施でき、効果が大 きいと考える。量的・質的比較の結果からは、子どもの主体性を高める必要があり、質的なレベルは高いと考える。そして、持続可能性に向けて効果的な環境学 習は、地域、他の団体と連携し、その連携を行うコーディネーターをうまく育成し、社会行動や現状の問題解決につなげることであると考える。

4. まとめ

本研究では、環境学習の現状・課題を明らかにし、事例の分類、質的・量的比較を行った。持続可能性に向けての効果的な環境学習は、学習者主体の中、各組織で連携して行われ、楽しく体験し、社会行動、環境改善を伴う学習である。

謝辞

本研究では、熊谷哲先生、杉山裕子先生、清原正義先生、合田博子先生に御指導いただきました。 さらに、聞き取り・アンケート調査では、行政組織、小学校、中学校、大学、施設、各団体の非常に多くの方々が、お忙しい中にも関わらず快く引き受けて下さ いました。この場を借りて、心からお礼を申し上げます。

<参考文献> ・ロジャー・ハート(2000)「子どもの参画」萌文