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山岳信仰と日本人

安田喜憲 編著『山岳信仰と日本人』
(NTT出版、2006年、393頁、4800円)
平 田 俊 博

 (目次)
はじめに――山は天と地の架け橋
第1部 日本の山岳信仰のルーツは長江文明にある 
第1章 オビシャと長江文明
第2章 日本人の山岳信仰と長江流域
第3章 雷神と観音と山神と――日本の山岳信仰に寄せて
第4章 山と里の民俗文化的特質
 第2部 立山信仰研究への新たな展開
第5章 立山信仰研究の視点
第6章 立山信仰の歴史地理学的研究
第7章 ミクリガ池年縞堆積物からみた立山信仰の開始
――なぜ人は立山に登ったのか?
第8章 立山ミクリガ池の湖底年縞堆積物から産出した大型植物遺体
第9章 ミクリガ池における過去一九〇〇年間の水質変化
――珪質微化石にもとづく推定
第10章  ミクリガ池湖底から採取した年縞堆積物からみた立山周辺の
過去一三〇〇年間の植生変化
第11章  山岳植生の変遷史
第12章  山岳信仰と女人禁制――立山と羽黒山の比較から
 第3部 白山信仰は日本の山岳信仰のルーツか
第13章  古代の日本海からみた白山と立山
第14章  白山垂迹曼荼羅図の六所王子をめぐって
第4部 磐梯山信仰と徳一の再評価
第15章 大和朝廷律令制国家の確立と会津地域山岳信仰の役割
第16章 絹本著色恵日寺絵図を読む――神仏習合を完成させた徳一
第5部  山の神々がかたるもの
第17章 山の神論言説批判のための覚書
第18章 仏の衣を着せられた神の山
第19章 新説・山の神考
第20章 山岳信仰と島国日本の未来
あとがき
編著者・執筆者略歴

本書は環日本海文明研究の一環として結実した、19人の研究者による優れた論文集である。山を「天と地の架け橋」として捉える精神が、日本の山岳信 仰の原点であり、そのルーツが中国南部の長江文明にあるとする本書第1部の諸論考が、本書の基調をなしている。だが、そこに納まりきらない面も多々存在す ることを、第3部や第5部の諸論考が示唆している。
日本人にとって山と森は同じものであり、山が森で覆われているのは当たり前だが、ギリシャなどの地中海沿岸諸国の民にとってはそうでない。彼らには森のな いはげ山が当たり前の景色なのである。とはいえ、はるか昔、地中海文明が花開いていたころには、そうしたはげ山も日本の山のように深い森に覆われていた。 何が両者を分けたのだろうか。持続可能な環境と文明を探る上で、日本の山岳信仰のあり方が何らかの指針を与えてくれるようにも思われる。
かつて老荘研究の泰斗であった福永光司が、古代日本の越の国と、古代中国で長江下流域に栄えた越の国の連関を強く示唆していたが、そうした福永説の検証に関する論考があれば、本書の内容がもっと重厚になったことであろう。
本書は国際日本文化研究センターと富山県日本海学推進機構が共同で実施した国際日本文化研究センター地域連携共同研究「日本文明史の再建 ①環日本海文化 と立山信仰」の研究成果である。編者である安田喜憲のほかに、佐々木高明、小林道憲、岩鼻通明らの碩学が健筆を振るっている。
「日本文明史の再建」という課題は、本誌書評で取り上げた安田喜憲『文明の環境史観』の最終目的をなすことでもあり、両書の併読が期待される。

(平田俊博)