小林道憲 著
『古代日本海文明交流圏――ユーラシアの文明変動の中で』
(世界思想社、2006年、270頁、1900円)
(目次)
Ⅰ 日本海と海人の活躍
1 日本海の環境と航海者たち 日本海と海上交通/恵む海と行き交う海/ 海人の活躍と王権
2 外来文化の流入と信仰形態 大陸文化の流入/船と航海術/海人の信仰
Ⅱ 巨木柱列と?状耳飾り
1 日本海沿岸部の縄文人 縄文文化/ロングハウス/巨木柱列/ストーンサークル
2 日本海の交易と交流 土器・石器と交流/翡翠と日本海の海上交易/天然アスファルトと黒曜石/船と交易
3 北方系文化と南方系文化の流入 北方系文化の流入/?状耳飾り/南方系文化の流入/稲作の起源
Ⅲ 鉄器の普及と玉作り文化
1 外来文化の流入 水稲稲作の伝播/社会の階層化と都市国家の成立/ 弥生式土器と沿海州文化/青銅器の普及と荒神谷遺跡/鉄器の普及
2 海上交易と文明変動 玉作り産業と日本海沿岸部/海上交易と海上交通/ ユーラシアの文明変動と弥生日本
Ⅳ 日本海の王国と海上交通
1 新しい技術の流入 新来の技術者/製鉄/土木/絹織物/造船/騎馬/ 騎馬の起源
2 地域国家の形成 新技術と地域国家/越王国/丹後王国/出雲王国/ 筑紫王国/地方国家としての大和政権/古墳時代の交易
3 大和政権との関係 出雲と大和/筑紫と大和/越と大和/大和政権と海上ルート
Ⅴ 沿岸交流と対岸交流
1 日本海沿岸交流 越と出雲/出雲と筑紫/日本海ルート
2 日本海対岸交流 盛んな対岸交易/四隅突出墳と前方後円墳の源流/ 横穴式石室の普及/渡来人の移住/ツヌガアラシト/アメノヒポコ
3 渡来神 越の渡来神/若狭・因幡の渡来神/出雲の渡来神/筑紫の渡来神
4 継体大王と東アジア 継体大王の出自/継体朝の成立とその事蹟/四・五世紀の東アジア
Ⅳ 小金銅仏の渡来と高句麗使
1 仏教の伝来 仏教の伝来/日本海沿岸の小金銅仏/上淀廃寺/仏教のきた道
2 高句麗使の来着 高句麗と高句麗使/日本海ルートの確保/気多と気比/
北方騎馬民族と朝鮮半島情勢
3 新しい渡来文化 日本海域の高句麗文化/壁画古墳と積石塚/岡益の石堂
Ⅶ 渤海使のもたらしたもの
1 渤海国と渤海使 渤海使と遣唐使/渤海略史
2 日渤交流の実際 軍事目的から出発した渤海使/経済目的への転換/渤海使の接待/漢詩の応酬
3 日本海航路 渤海使と北陸道/日本海航路と航海術/渤海を通した日唐航路/
ユーラシアの文明変動の中で
結び 文明論の視点から
日本海と日本文明/外来文明の受容/文明とは何か/文明のネットワーク
註/参考文献/あとがき
本書は、書評で取り上げた同じ著者の『文明の交流史観――日本文明の中の世界文明』より半年遅れて出版されたが、内容的には先行するもので
ある。本書が日本海文明に視野を限定して、丹念に歴史資料を踏まえながら文献実証的に筆を進めるのに引き換え、前書はむしろ視野を大きく世界文明へと拡大
して、地球規模で文明論として哲学的に論証しようとしている。
小林史観の基本は、「文明交流は文明の本質であり、文明の命である」(248頁)とする点にある。文明交流圏があって、初めて諸文明の形成が可能になるの
であって、決してその逆ではないと力説する。その点で、ヨーロッパ文明や日本文明を自成的な文明と捉えた梅棹忠夫の文明の生態史観と真っ向から対立する。
また、基本文明と周辺文明と文明交流圏の3本立ての伊東俊太郎の比較文明学とも対立する。
「日本文明は外来文明の重層的融合によって成り立ち、むしろ、原日本とでも言うべき中核はない」(241頁)と小林は喝破しているが、卓見である。「貪欲
なほどの外来文明の吸収こそ、日本文明の自己形成エネルギーだった」(同)とする意見にも賛成したい。だが、「日本文明史は世界文明史の一部」(同)にす
ぎず、「発祥以来、世界文明の変動と密接に連動」(同)していたとまで言うなら、そもそも日本文明と命名し同定する根拠が怪しくなりはしないか、と不安に
なる。文明とか文明圏という概念が、そもそも実体的概念ではなくて、事態を方法論的に分析するための機能的概念なのではあるまいか。とすれば、機能的概念
としての柔らかなアイデンティが探られてもおかしくはないような気がするが、どうであろうか。
(平田俊博)
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