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共生のかたち「共生学」の構築をめざして

竹村牧男・松尾友矩 編著
『共生のかたち――「共生学」の構築をめざして』
(誠信書房、2006年、251頁、3000円)

(目次)
序章 「共生学」の課題と展望 [竹村牧男]
「共生」の時代/「共生」の意味/「共生」という課題の背景/
「共生」への学問的取り組みの必要性とその展望/「共生学」の構築に向けて
第1部 「共生」の理論的研究
第1章 縁起と共生――仏教から見た共生の理論について [竹村牧男]
 はじめに――無我の問題/ 縁起のなかの自己/ 縁起の思想史/六相円融義の思想 ■総相とは ■別相とは ■同相・異相とは ■成相・壊相とは /個と共同体の関係の論理の考察
第2章 中国思想と共生の理論 [山田利明]
 同族の倫理/ 同族から社会へ/ 共生学としての儒教
第3章 共同体と個人倫理――「近代的自我」の構造 [村上勝三]
 「私たち」の共生/「近代的自我」という幻想/「自我」「自己」「我」「私」/
 「自我」とはどのようなものか/ 個人としての「私」/ 道徳感情論と「私」/
 「私」の「かけがえのなさ」
第4章 航空機事故遺族の心理と「共生」 [安藤清志]
 外傷的悲嘆/ 航空機事故遺族の特徴/ 世界観の崩壊/ 意味構築の過程 /
 次世代に向かう「共生」
 第2部 「共生」をめぐる現状分析
第5章 異文化・意宗教間の対立と対話――イスラームを軸に [後藤 明]
 イスラームは、ユダヤ教とキリスト教の兄弟宗教/ パレスチナ問題の発端――それは宗教対立か、政治的対立か/ イスラエルの建国とパレスチナ問題/ パレスチナ問題の宗教化/ アフガニスタン問題とイスラーム過激派/ 政治と宗教――イスラームの理念/ イスラーム主義とイスラーム運動/ 文明の衝突/ イスラーム原理主義とテロ/ イラク問題――民主主義原理主義の暴力/「共生」の可能性
第6章 国際経済における共生への課題―グローバリゼーションの光と陰 [中北徹]
 「共生」とはなにか ■経済学の視野と問題意識 ■経済学の観点から見て何が問題か/ 現代世界経済の構造と特徴 ■古くなった世界認識の枠組み ■三 つの国家グループの交錯・干渉の時代 ■同心円状構造の世界/ 収斂と統合化の経済学 ■グローバリゼーションとは何か ■グローバリゼーションの現実  ■グローバリゼーションによる世界経済の収斂 ■グローバリゼーションにおける「共生」の意義/    最貧国の開発問題 ■貧困地域は集中している ■ 援助の理念とは ■経済的相互依存の考え方/ グローバリゼーションと環境問題/ 結語
第7章 共生と福祉――苦しみとの共生 [中里 巧]
 福祉とは/ 実存と精神/ 苦しみの特性/ 苦しみと死/ 苦しみとの共生/
 許しと幸福
 第3部 「共生」に向けての実践と成果
第8章 都市の混住モデルがもたらすもの――アジア大都市を事例として[藤井敏信]
   都市化の時代/ 都市づくりの試み/ アジア大都市の特徴/ スラムコミュニティの可能性/ 混住型と用途特化型――二つの都市型/ 混住環境の可能性について ■修復型の都市開発へ ■環境共生への対応 ■地域コミュニティの再構築
■多様な価値観の混在
第9章  高度情報化社会がもたらす共生の可能性 [大島 尚]
共生とコミュニティ ■コミュニティの潜在力 ■ソーシャル・キャピタルという概念 ■集合行為のジレンマ ■ソーシャル・キャピタルとコミュニティ活動/ 
   オープンソースのコミュニティ ■オープンソースとは何か ■オープンソースの歴史 ■オープンソースとビジネス ■オープンソースを支えるコミュニティ
第10章 「環境との共生」の実現に向けて [松尾友矩]
はじめに/ ユートピアにおける環境の扱い方/ 環境問題の展開と課題――十九世紀末のイギリスと二〇世紀末の日本を例として/「環境との共生」の実現へ向けて国際的な展開と仏教経済学の可能性
 あとがき

 もう一つの東大である東洋大学が、いま「共生」の理念をコーポレート・アイデンティティーに定めて、「共生学の構築と発信」を大学の新し い使命とした。今年の四月そのために開設された機関が「東洋大学 共生思想研究センター」であり、その最初の成果が本書である。編者である竹村牧男教授と松尾友矩学長を始めとして、後藤明教授や村上勝三教授ら斯界の泰斗 を執筆陣にずらり並べることのできる東洋大学の実力には脱帽するしかない。百余年前に仏教哲学者の井上円了博士が前身の哲学館を創設した時には、あらゆる 面で東京大学に比べるべくもなかった。しかし今や両者は急速に接近しつつある。恐らく千年後には官学の東大は、千余年前に創建された官寺の東大寺が現在そ うであるように、歴史遺産としての名声に憩うばかりであろう。逆に東洋大学は東洋的な知のメッカとして、共生の哲学を世界に力強く発信していることであろ う。かつて民寺が官寺を圧倒してきたように、私学が官学を乗り越えるのが歴史の教訓の示すところであるまいか。  権力に頼るものは権力と共生し権力と共に浮沈するしかない。

(平田俊博)