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倫理道徳の白書 Vol. 1

モラロジー研究所 道徳科学研究センター編 『倫理道徳の白書Vol.1』
(モラロジー研究所、2006年、467頁、2800円)
清水良衛

 日本と世界の現状を眺めるとき、『倫理道徳の白書Vol.1』は様々な場面で当面する解決困難で不安な諸問題を、人類と地球生命社会の将来に向け 健全化を考究し検討するに、具体的で広範な課題を提出する。それらはいづれも、日本一国にとどまる問題ではなく、全地球的視野の課題となっていくものであ り、とりわけ地球全体の自然環境を考えることは、今や、環境倫理の名を超え、全地球的倫理として考えねばならないところに来ているのである。その深刻な認 識こそ、今必要なときである。
 これらの問題を本書はその目次で、

第一章 倫理道徳の白書
第二章 コモン・モラルと専門倫理の探求
第三章 医療倫理
第四章 カウンセリング倫理
第五章 企業倫理
第六章 情報倫理
第七章 環境倫理

の七章に分け、論じられていく。
そこでは各々が倫理道徳のあるべき姿として直視され、現状がそのまま報告されていくが、その目的をここでは「倫理道徳の特定の学派とか流派を取り上げてそ れを主張するというより、広く世界人類が現に保有するさまざまな考え方と行為の実情がどのようになっているかを調査し、報告することにある」(454頁) とし、そのことからどの章にも広い取組みがあり、大部なこの一冊の全体を読破するには大きな作業となる。
 ここでは個人レベルでも具体的行動を問う実践的改善こそが、何よりも大切だが、そのための課題把握と整理にも、問題取組みに多くの示唆を与えてくれるだ ろう。私たちは「地球上のある一点での出来事が遠く離れた地点での人間の生き方になるまで作用を及ぼし、あらゆる人々が隣人となることにほかならない」 (2頁)時代に、生きているのである。
 私は、地球環境悪化を巡る要素の多岐にわたるその原因と経過を知りたいと思い、人口増、砂漠化、水不足、化石燃料からの大気汚染、ほかに見られる深刻な地球上の事態に思いを及ぼしつつ、第七章の「環境倫理」を読んでみた。本書の書評はこれを中心に取り組んでいる。
 日本人に限らず、昔の人々は農業牧畜という最初期の生活では、何よりも自然を知ることに生活があり、自然と共生共存することで文化も発展させて来た。し かし産業革命に始まる十八世紀以降の産業と生活の変化は、それ迄の人力や馬力を蒸気に変え、更に石炭そして石油へとその動力源を変えて、増大した化石燃料 からは様々な「汚染」という今日の社会問題を、「公害」の名と共に拡大して来たことは、特にわが国においては戦後経済の成長期の後半に認識され出した問題 として、記憶に新しいところである。それは今を生きる私たちの世代の生き方と考え方とに起因した問題であり、「地球温暖化、酸性雨、オゾン層破壊、森林破 壊、有害廃棄物、沙漠化、野生生物減少、土壌・水質・海洋汚染、放射能汚染などの現象」(390頁)は、全てが相互に関連し、これ迄の私たちへの生活の在 り方を問うている。この深刻さに対し、何よりもその意識を高めねばならない時に、私たちは来ているのである。
 公害先進国となった日本は、しかし公害が契機となり、やがて環境基本法(1993年)の元となる公害対策基本法(1967年)の制定となり、循環型社会 へと転換していくことになる。日本は官民共に、公害対策にはかなりの努力をして来ており、その成果も示して来た。そしてこれらの変化を、本書は時系列的に 叙述している。
 公害化現象の個々の状況は本書に譲るが、1968年に設立されたローマクラブとその活動理念の紹介もここにあり、そこで刊行された『成長の限界』(1972年)と『限界を超えて―生きるための選択』(1992年)の二つのレポートも、ここに紹介されている。
 社会の改善は学問的分析と提言だけで実現しないのは明白で、これを実践に、それも個々人の生活の中での実践に結びつけることは更に重要であり、本書はその視点で読むとき一層の、広く新しい視点を与えることになるだろう。


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